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-タイヤのボディ骨格となるカーカス-

あぁすごい。でも皆は我々がどのようにカーカス構造を指定しているか知りたいのでしょう。カーカスモデルについて話をしましょう。まずはタイヤが造られる背景から始めよう。ゴムだけではまともなタイヤを造ることはできませんでした。もし自転車のインナーチューブにハンドポンプで空気を入れたことがあれば、タイヤとして働く空気圧になる前にもチューブが変形して膨らんだりするのを見たことがあるかもしれません。インナーチューブが空気圧に対抗するほど硬くないので膨張するのです。だから綿布をゴムでコーティングしたものでチューブを包んで硬化させる賢いアイデアが出てきたのです。綿繊維は膨張圧力に強く、ゴムは空気中に保持されて地面にグリップする。これはジョン・ダンロップの息子が三輪車に乗ったとき頭痛をうまく和らげたが、この空気式タイヤのアイデアが自動車に広がったときには問題も生じました。まず第一に織物綿布では地面で擦り切れて摩耗してしまい、綿繊維そしてタイヤが壊れてしまう。パンクは初期の自動車では一般的でしたが、ゴムシート内で上下相互に繊維を織らずに平行に重ね、それらを90度向きを変えて重ねることで解決しました。織物の強さを得ましたが繊維は互いには擦れ合いません。すべてゴムで少しずつ分けられており、タイヤの回転に伴って繊維が動くので擦れが少なく綿繊維が破壊されにくくなります。

二つ目の問題はタイヤコードとしては綿がそれほど良い素材ではないことです。酷くはないが、科学者は20世紀に入ってよりよい素材を作り出しました。第一にレーヨン、そしてナイロン、ポリエステル、ガラス繊維、スチール、そしてアラミド繊維(カーボンファイバー)のコードが開発されました。今日では、これら使用方法によって異なるコードもすべて前述のように平行なコードが保持されたゴム層と、その上に角度を付けて(90度である必要はない)重ねたコードの第二層とでクロスプライラミネートされています。これらのクロスプライラミネートがタイヤのブロックを形作っています。

カーカスレイヤー/プライは、1層のシートではコードの向き以外に引き伸ばすと形が変わってしまいます。これをタイヤ円周を取り囲む円周方向と平行に使っても膨張したタイヤの形を保ちにくいため、シートを2層重ねて円周方向から正負それぞれ異なる角度にずらして使用しました。この角度によって、外周方向と半径方向に異なる硬さを選択できます。タイヤ作りの初期には、タイヤメーカーは2プライか4プライ構造を選択する傾向がありました。そしてその角度はかなり大きく +/- 35~45度(合計90度近く)でした。このようなタイヤは外周に対してコードが斜めに(バイアス)配置されていたのでバイアスプライタイヤと呼ばれました。初期に使われていた綿には伸縮性があまりないので、ハンカチは辺の中央を持って引っ張ってもあまり伸びませんが、対角線上の角を持って引っ張ると伸びます。この角度をずらして重ねると、どの角度にも強いハンカチを作れるでしょう。

タイヤの構造により、伸縮性のある素材を使うことが重要です。ミシュランが良い動画を公開しています。


https://www.youtube.com/watch?v=nFLQU17e31M

この動画でタイヤケーシングが最初にホイールの直径サイズのドラムに巻き付けられているのが分かるでしょう。そして十分な量になると中央を膨張させてタイヤの形に押し出します。ケーシング層(またはボディ層)はホイールリム径からタイヤ径まで伸ばす必要があります。それができるのはケーシング層のコードがタイヤ中心線に対してプラスマイナスゼロ度から若干ずれている場合だけで、タイヤケーシングがタイヤ形状に広げられると、コードが中心線に対して垂直でない限り、ビードから中心線までコード角度は浅くなります。例えば、2層でバイアスプライタイヤが組み立てられ、2層がそれぞれドラム中心線からプラスマイナス45度で始まる場合、コードを伸ばしたタイヤ外周中心は30度など少し小さな角度となる必要があります。これを視覚化しようとするのは面白いですが、複雑な数学はもっと面白いです。バイアスプライタイヤが放射方向(横から見てホイール中心から放射状)/半径方向よりも外周方向の方が硬いのでトレッドはサイドウォールよりは平坦にしやすいですが、バイアスプライタイヤのトレッド横断面は通常、ラジアルタイヤよりも丸みを帯びており、一般的にバイアスプライタイヤは空気圧でより膨らみます。

-ラジアルタイヤの登場-

今日ではバイアスプライタイヤはオフロード車両やバイク、そしてダートレース以外では少なくなっています。トレッドを広げようとする場合、バイアスプライタイヤには基本的なトレードオフがあります。最外周層の角度を断面曲率をコントロールするのに十分なまで小さな角度にするために(つまり平坦なトレッドをより広くするために)、全体的に浅い角度にするとサイドウォールの剛性が低くなって空気圧を保持できなってしまうのです。グリップが欲しいのでワイドタイヤにしたいわけですが、ラジアルタイヤがこの問題を解決して、フラットなトレッドと空気圧で膨らまないサイドウォールの剛性を両立しました。それはタイヤが形作られたあとのケーシングプライの周囲にもう一組のベルトを巻いたのでした。ちなみに実際のところ、ほとんどのラジアルタイヤは正確に放射方向/半径方向の(ラジアル)コードがあるわけではなく、中央線から90度の角度とはなっていません。縦方向の十分な剛性を得るために、コードはしばしば僅かに小さい角度、例えば85度で配置されます。ラジアルのレースタイヤではたいてい65~80度となっています。これが縦方向の剛性 kx を適切に決定するためのキーとなっています。

ベルトやキャップ、またはオーバーレイプライにさらにプライが追加されることもよくあります。これは通常外周方向に平行に重ねられるシングルプライで、主に高速時にベルトをタイヤに貼り付けたまま保持するために用いられますが、同時に縦方向の剛性を上げます。これでタイヤカーカスの構造仕様を表現できるようになりました。最初に、いくつか基本的な指定が必要です:寸法計測箇所でのリファレンスとなる空気圧測定値、リム幅、円周中央線、セクション幅、トレッド幅、トレッド中心のトレッド半径、トレッド端のトレッド半径(断面における曲率半径)、トレッド中央部半径を有するトレッドの割合、追加のリム半径に似ている私達の目的で働くビード近くのサイドウォールの比較的硬い部分とビード頂点からなるサイドウォールの高さの割合)。

次は、ケーシング、ベルト、キャッププライの仕様を指定します。プライの深さとコード情報:コード係数(硬さ)、コード密度、慎重に指定された動的な実験(転がり抵抗と垂直方向減衰)のコード損失正接、形成されたコードの外周プライ角度、プライ中のコードの体積分率(残りはカーカスゴム)、の組み合わせです。最後に、トレッドの深さとトレッドブロックがあればその寸法を指定します。これらの情報はすべて、見て、測定して、切り取ることで得ることができます。繊維・糸・織物繊維(コード)に深く浸透し、定量的な意味で撚りがコード弾性率にどのように影響するかを調べることで簡単に判断できます。

手強く見えますが実際のところかなり少数のパラメータであり、それぞれは理論的に決定できます。前述したトレッドのゴムレシピと合わせて、モデルとなるタイヤの完全な仕様ができました。さてもうひとつ、リムについて、リム径、リム幅、フランジ高、質量、材質特性-密度、熱容量、熱伝導率、ととても基本的な仕様を指定します。これらの測定可能な数値をタイヤの力に変換するにはどのようにすればよいでしょう。

簡単に言ってしまえば、数学です。たくさんのね。しかしここであまり多く数学の話はしません。そもそも、公開しようと思っていません。それらすべて、長い時間を掛けて導き出したiRacingの財産だからです。そして、今読んでいる読者のうちほとんどをすぐに失うことにもなるでしょうから。モデルを支えるいくつかの理論をカバーするつもりですが、表面をスクラッチしただけだとも知っています。完全に説明するには本が一冊書けますね、しかも方程式ばかりの内容で。
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