前のページがあります

タイヤ構造モデル

最初に、トレッドゴムの作り方と、実際のタイヤがどのように造られているか説明しよう。あるタイヤの構造について、まずゴムとカーカス両方の詳細を明確にする数値を取得して、そしてそれらの数値と、ホイール・リムの位置、向き、線形速度、角速度、そしてもちろん路面特性を示す数値、これらの数値だけで、タイヤのフォースと挙動を計算して求めます。

-ゴムコンパウンド-

では、タイヤゴムの背景から始めよう。タイヤゴムコンパウンドはいくつかの基本的な素材、生ゴムやオイル、カーボンブラックフィラー(すす粒子)、硫黄を混ぜ合って構成されています。単純化しすぎましたが、現実にはゴムにはステアリン酸と硬化用触媒となる酸化亜鉛、硬化プロセスの促進剤、酸素とオゾンからゴムを保護し、必要に応じて粘着性にする化学物質も含まれています。カーボンブラックフィラーに加えて、あるいはその代わりに、多くのタイヤでシリカフィラーが使われていますが、レースタイヤではあまり一般的ではありません。上記のはじめの 4成分が我々が必要としているゴムの特性を決定付ける最も重要な原料です。生ゴムは通常 SBR (第二次大戦中に発明されたスチレン・ブタジエンゴム)ですが、天然ゴム(またはイソブレンゴム)も一般的です。オイルはほとんどがゴムを希釈するので柔らかくなります。私はオイルを単に希釈剤として扱います。

-オイル-

オイルは、コンパウンドのガラス転移温度に影響します。ガラス転移温度(Tg)とはポリマー(高分子化合物)が硬いプラスティック状から柔らかくねばねばしたゴム状に変化し始める温度のことです。ゴムコンパウンドのガラス転移温度 Tg に対するオイルの影響は、ゴム、オイル、カーボンブラックを含んだコンパウンド全体のガラス転移温度 Tg を単純に指定することで考慮できます。とにかくラボでの測定から戻ります。タイヤゴムコンパウンドの典型的なガラス転移温度 Tg は、スノータイヤで -75℃、典型的な乗用車用タイヤやハイスピードオーバル用タイヤで -50℃ 、上は典型的なレーシングスリックで -35℃、F1 タイヤでは -10℃ です。通常、ゴムはガラス転移温度 Tg から約 50℃ 高い温度でゴム状になり始めるので、F1 がタイヤウォーマーを使う理由が分かるでしょう。それなしで温度が下がってしまうと、タイヤがプラスチックボトルのように硬くなり始めてしまうのです。

-カーボンブラック-

カーボンブラックはゴムにトレッドコンパウンドとして使える状態に変化させる重要な添加剤です。生ゴム自体は柔らかすぎてトレッドにするには弱すぎるので、カーボンブラックを加えてゴムの強度・粘度を上げます。カーボンブラックはすすの粒子の形態であり、その粒子サイズは極小で直径 15~250 ナノメートルの小さな球体と考えてみてください。ほとんどのタイヤトレッドコンパウンドで約 30 ナノメートルまでの極小の粒子を使いますが、ゴムポリマーやオイルに対してこの小さな粒子が粘着性を発揮します。多くのものがカーボンブラックの表面に粘着性を示すのがカーボンフィルターが広く使われている理由です。手についたすすを落とすのは難しいですよね。実際のところカーボンブラック自身がカーボンブラックに固着しやすいです。この特性により、粒子がよく分散して塊にならないように、ゴムとオイルとカーボンブラックは注意深く混ぜ合わせる必要があります。ひとたびゴムコンパウンドにカーボンブラックを混ぜたら、それは驚くべき特性を持つようになります。第一にとても強く、第二にとても硬い。第三にそれはもはや標準的なポリマーのセオリーに基づいて挙動を決定できない、ダイナミックで複雑なものになります。

-硫黄-

硫黄についても説明しておく必要があります。ゴムを架橋/加硫するために使われます。これは多くのポリマー鎖を硫黄で相互に架橋して科学的に結合させて構成されます。硫黄はゴムコンパウンドにカーボンブラックとオイル(それ以外はここでは気にしない)と共に混ぜ合わされ、タイヤ形成後にモールド内で約 140~150℃ に温度が上がるまで比較的不活性な状態で待機すると、硫黄の室温で最も安定した形態を構成する 8つの硫黄原子の小さな環が 8 個の硫黄原子の小さな鎖に分解し始めます。そしてそれらがゴムポリマーの炭素-炭素二重結合に結合して硫黄鎖との単結合に変わります。最終的に硫黄の他端は別のポリマーに付着して架橋が形成されるこのプロセスがモールドが冷却されるまで続きます。硫黄架橋はまたこの硬化中に壊れてより多くのポリマーに再付着することで2~8個の硫黄原子を有する架橋となるまでより多くの架橋を形成していく。最後に唯一重要なことは硫黄がコンパウンドが多くの架橋を持つようにすることであり、大雑把に言って2倍の硫黄が2倍の架橋につながり、2倍の架橋はゴムを2倍硬くすることを意味します。ゴムを架橋すると基本的にゴムが粘性液体からその形状を維持する固体に変わるのです。

-ゴムレシピ-

ゴムコンパウンドには各物質がどれだけコンパウンドに加えるかのレシピが作られます。生ゴムポリマーを常に100の重量として、他の添加剤はゴムに対する重量割合で指定されます。例えば、あるレシピでは SBR(スチレン・ブタジエンゴム) が 100 に対してアロマオイルが 30、N330カーボンブラックが 70、硫黄が 1.3 といった感じになります。ゴムの動的挙動には影響しない他の添加剤については我々は無視しています。N330が使用しているすすのグレードは分かるので粒子のサイズを判断できます。まぁトレッドゴムをラボに持ち帰ればそのゴムの製法についてかなりよい推測をすることはできるでしょう。こういった情報を得ることは可能なのです。そしてタイヤ会社は彼らのレシピをガードしていますが、多くの標準的なゴムレシピが公開されています。一般的なタイヤにも多くの異なるコンパウンドがありますが、我々にとって重要なのはトレッドとタイヤコードを取り囲むカーカスだけです。私は全てのタイヤで似たカーカスコンパウンドが使用されていると仮定して、トレッドコンパウンドのレシピだけを指定します。タイヤによらずカーカスに求められるものは同じなのでこれが合理的だと考えています。そしてカーカスゴムよりもタイヤコードの方がはるかに重要です。

さぁ、標準的な、しかし単純化されたゴムレシピでトレッドゴムをどのように指定するのかが分かりました。ゴム、オイル、カーボンブラック、硫黄の配合と、コンパウンドのガラス転移温度 Tg を指定して、すす粒子の直径をナノメートルで指定します。そして硬化レベルも 0.0~1.0 の間で指定します。100% 未満の硬化は初期状態では柔らかいゴムがレーストラックの温度で硬化し続けることを意味します。これは硬化時間と温度、そして硬化促進剤との調整です。トレッドゴムモデルこそがスリップカーブの挙動(少しはカーカスにもよる)と、究極のグリップ、そして限界領域のフィーリングをもたらすので、詳細を得るためにとても重要なのです。

次のページがあります